症状別 漢方の教え

KAMPO KNOWLEDGE
更新日:2024/07/16 (火)

【 漢方で出てくる概念「未病」 】

「未病(みびょう)」という言葉。CMなどで聞いたことがあるかもしれません。

これは東洋医学の古典『黄帝内経』に出てくる言葉で、いくつかの意味をもっています。

主には、「病気ではないけれども、病気に向かっていっている状態」のこと。
症状は表れていないけれども、内側ではゆっくり病気に近づいている状態です。


例えば、いつも通り朝起きて仕事に行き、一日働くことはできる。
でもよく見ると少し疲れた顔をしていて、声の張りもない感じ。
自分ではそこまで自覚がなくても、「いつもとちょっと違うなぁ」と周りが感じ取っていたりします。
ここで心身のケアが不十分なまま放っておくと、倦怠感が増して朝起きられなくなったり、食欲低下や頭痛、不眠など、いろいろな症状が出始める可能性があります。

この他に、“肥満”も未病のひとつと言えます。
“肥満”は単に“太っている状態”。行き過ぎたり慢性化したりすると、血圧や血糖値、中性脂肪などの代謝異常や心血管疾患、足腰の痛み、肌荒れ、睡眠時無呼吸症候群など、あらゆる不調に繋がります。


漢方では、この病気になる前の段階「未病」のうちに対処することがよいとされ、そのための心の在り方や、食事、運動などの暮らし方(いわゆる養生法)、漢方薬、鍼灸などの治療法について教えてくれています。
 
~中国の逸話~
ここで小話をひとつ。

中国春秋時代、「扁鵲(へんじゃく)」という伝説の名医がいました。
彼には同じ医者である二人の兄がいて、あるとき、兄弟で誰が一番腕が良いのか聞かれたそうです。

扁鵲は次のように答えたといいます。

「一番上の兄は、病の兆候が表れる前に治すので、家の者しかその能力を知りません。
二番目の兄は、兆候がわずかな軽い内に治すので、その村の人しか知りません。
私は、病がひどくなったものを手術や投薬などで治しているので、天下に名高いのです。」


これは、病気にならないように、ひどくならないように対応できる医者が良い医者だ、と伝えているお話。
先述の「未病」という概念の重要性を感じさせられる逸話です。


病になってしまっても治せる手段があることは希望になりますが、
病になる前に防ぐことができるなら、その方がいいなとも思いますよね。
~「未病」のうちに治すススメ~
未病のうちに治すとよい理由はいろいろありますが、
何より、できれば病気にはなりたくない、できるだけ苦しみや辛さを味わいたくない、というのは大きいですね。

また病気になる前に対応することで、早く回復しやすい、心身へのダメージが小さくて済む、などもあります。

社会的な観点でいうと、医療費を減らすことができる、という側面も。


もちろん、病気になるのは悪いこと、ということではありません。

病の兆しに気付けないことは往々にしてありますし、避けられない病もあります。
また、病気を経験することで気付けること、学べることもたくさんあります。
ましてや、病気になった自分を否定したり、病気の人を非難するのも違います。


大切にしていただきたいなと思うのは、日頃から心身の声を聴き、いたわり、違和感を放っておかないこと。
自分の心と身体を、大切に愛おしむこと。


限りある人生を、より大切に、有意義に過ごすことが、「未病を治す」ことだと感じます。