症状別 漢方の教え

KAMPO KNOWLEDGE
更新日:2020/10/30 (金)

全身、特に下半身のむくみ〜冷え性、腎・膀胱が弱い人〜

むくみの中でも重症!冷え性、腎・膀胱が弱い人のむくみ

漢方では水の通り道のことを「三焦(さんしょう)」と呼びます。
三焦とは「上焦(じょうしょう)」「中焦(ちゅうしょう)」「下焦(げしょう)」の3つのことで、どこの部分の水の通りが悪いかで漢方薬を使い分けます。

次の項目に当てはまるむくみは、上述の3つの水の通り道のうち、「下焦(げしょう)」のむくみと捉えます。

□全身、特に下半身のむくみ
□腰痛
□手足の冷え
□尿量減少

全身、特に下半身がむくむという方は「下焦(げしょう)」のむくみの可能性があります。上焦、中焦のむくみが慢性化すると下焦のむくみにつながるため、むくみの中では最も重症度が高いものになります。

むくみと低体温の漢方でダイエット大成功!

50歳の女性。むくみと低体温でお悩み。
とくに最近は浮腫みがひどくて、まずはここをなんとかしたい。
体温は若いころは36.5度くらいあったが、今は35度台前半。
体重が増えていることも関係しているのでは?と思っている。

代謝と体温の関係

体温が1度下がると代謝が約13~15%下がると言われています。
代謝だけではなく、免疫力も体温が1度上がると5~6倍になると言われています。

むくみがとれて1か月で-4㎏!

漢方を始めて1か月で4kg落ちました!ご本人様もビックリ!
夜の食事量を抑えただけで、こんなに落ちるなんて初めてです!とのこと。
むくみも楽になってきている。
4か月後には会議で眠くならない、昼寝をしなくても大丈夫、食べても体重を維持できるように。
半年後、季節も冬になり、低体温中心の漢方へ。
真冬にも関わらず、36度台になる日が出てくるようになった!

浮腫みに関しては、早い段階で改善し、ほぼ気にしなくてよくなりましたが、低体温に関してはまだまだ時間がかかりそうです。
飲み忘れもほぼなく、頑張っていらっしゃいます。
ご本人様も前向きが基本ですが、時に、どうなんだろう、、、とご不安を漏らされることもあります。
確かにゆっくりじっくりではありますが、36度台になると、代謝も上がり、もっと楽になると思いますので、ぜひぜひ根気よく頑張って頂けるよう、応援していきたいと思います。

妊娠中のむくみに当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

妊娠中はむくみやすくなりますよね。食事や運動などにも気をつけているのになぜ?と思われる方も多いと思います。

漢方では、きれいな血が赤ちゃんを育てると考えます。

「肝」と言われるところが、血を蔵する(貯蔵)場所です。赤ちゃんの成長に血が多く使われる為、お母さんの肝に血が不足して、巡りが悪くなります。

肝は体の司令塔のような働きをしているために、働きが悪くなると、胃腸にも影響を及ぼします。食欲不振、胃腸がはる、げっぷがでるなどの症状がでます。

胃腸の働きが悪くなり、水が胃にたまり上がるとつわり、水を巡らせる力が弱くなり末梢に貯まるとむくみとなります。

当帰芍薬散の働き

当帰芍薬散は血を補い巡らせる 当帰、芍薬、川芎、水を巡らせる 白朮、茯苓、沢瀉からなる漢方薬です。不足する血を補いながら、胃腸や末梢にたまった水の巡りを改善する、まさに妊娠中のむくみにもってこいの漢方薬です。妊婦さんにも安心して使える上、さらに流産を予防する安胎薬としても使います。

妊婦さんでも安心して服用できる漢方薬は当帰芍薬散だけではありません。そして、妊婦さんにはダメな漢方薬もありますのでご注意ください。

冷えによる足のむくみ、痛み、腰痛に牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

腎は水を主(つかさど)ると言われていて体内の不要な水分を尿に変えて体外へ、必要な水分は再吸収して全身に戻します。

この機能が失調することにより、水の代謝が悪くなり、むくみやすくなります。
元々、水は下へと向かう性質を持っていて、冷やす性質もあります。
足が冷えていて、むくんで、さらに関節痛や腰痛がある場合にはこの牛車腎気丸がぴったりです。

腎の力が衰えて、身体を温める力も弱くなっている状態が腎陽虚。腎は年齢と共に衰えることもありますが、先天的に弱い人もいらっしゃいます。

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は別名加味腎気円とも呼ばれ、腎陽虚に使います。
八味地黄丸(はちみじおうがん)に牛膝(ごしつ)車前子(しゃぜんし)を加えたものです。
八味丸も腎陽虚で使いますが、牛膝・車前子の2種類が加わることにより、八味丸より利水性がパワーアップします。

牛膝・車前子の役割

牛膝には、袪疼止痛、活血通経、補益肝腎の3つの作用があります。
下行する性質があり、上半身の血液を下半身まで下ろし頭痛や月経を整えるために使ったりします。
牛膝が入ることで、血の巡りが悪く痛みがある場合には大変重宝する処方になっています。

車前子には、利水、通淋、止瀉、明目、袪痰止咳の作用があります。
車前子と言うよりオオバコと言った方が馴染みがあるかもしれません。
オオバコダイエットというのも一昔前に流行りましたが、余計な水分を排泄=デトックスするため水太りの人にはとてもおすすめです。
このオオバコが入ることで、炎症や溜まった水分を取り除いてくれるので、むくみ・痛み・関節痛などに大変重宝する処方になっています。

八味丸や牛車腎気丸は温める性質を持っているために、炎症があるような膀胱炎などに伴う排尿困難や残尿感や夜間頻尿には使えません。

冷えてむくむ場合の代表漢方、真武湯(しんぶとう)

真武湯は全身の冷えやめまい、お腹が緩い傾向の方に使います。
四神といわれる方位の守り神(青龍、朱雀、白虎、玄武)の玄武の名からつけられたという漢方薬です。
(玄武湯としては、恐れ多いということで少し変わり真武湯になったという経緯も)

青龍・・東
朱雀・・南
白虎・・西
玄武・・北

京都には色々通りがありますが、御所の南側にある通りで「朱雀通り」というのもこの四神をもとに名がつけられたと聞いてます。

真武湯の中身

真武湯は茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)、附子(ぶし)、生姜(しょうきょう)、芍薬(しゃくやく)からなる構成です。
茯苓、白朮:利水効果や胃腸を整える作用
附子、生姜:全身に気を巡らせ冷えを改善して、水分の流れを改善
芍薬:血を補うことにより利水の行き過ぎを調節

冷えの症状があり、むくみがあり、便が緩い方に使うことが多いです。
漢方的には腎系統の力が弱くなると、体内の余分な水分を尿に変えて排出できず、下半身がむくみやすくなります。
腎系統に効果があるのが、附子です。

附子(ぶし)について

トリカブトの毒性を減毒したもの。
鎮痛作用や強心作用、血管拡張作用などがあるといわれています。
附子と半夏は毒性が増すために一緒に使わないなどの注意点があります。
附子は強力に温める作用があります。

最近は、身体が冷えた方が多くて附子を使った漢方薬がよい場合もありますが、附子が入った漢方薬が少なくなって使いづらくなっているのが現実で嘆かわしいです。

下半身の冷えむくみに苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)と苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の中身は3種類は同じ生薬ですが、苓桂朮甘湯には桂皮が、苓姜朮甘湯には乾姜が入ります。
どちらも「茯苓・白朮・炙甘草」で体を温め、余計な水を外に出すというのは同じですが、
桂皮(けいひ)が入れば上半身の症状に、
乾姜(生姜を乾燥して蒸したもの)が入れば下半身の症状に使われます。

漢方薬は一種類の生薬が変わるだけで、こうも使い方が変わります。処方を考えた、2000年前のの人はすごい!

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

別名 茯苓桂枝白朮甘草湯とも呼ばれ胃腸を温めて調子を整えて、流れの悪くなった水をおしっこに変えて出します。
金匱要略に「痰飲を病むは、まさに温薬をもってこれを和すべし」と治療法が記載されてます。
利水剤として冷やさない性質を持つ茯苓、白朮を使っていて、炙甘草で胃腸を建て直し気を益す、温める方剤と考えられます。

桂皮が入ることで、のぼせ、動悸、めまい、立ちくらみ、頭痛などの上半身の症状によく使われます。
桂皮は血管を拡張して血行をよくして、お腹や下半身を温め、フワフワと上に上がっていってしまった気を引き戻すような働きがあります。

ちょっと応用で胃腸が弱く、冷えもあるような妊婦さんのつわりに使ってよかったこともあります。

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)

別名 茯苓乾姜白朮甘草湯、甘姜苓朮湯、腎著湯とも呼ばれ苓桂朮甘湯の桂皮が乾姜と変わったことにより、身体の中心(胃腸)を温める効果が強くなります。

金匱要略に「身体重く、腰中冷え、水中に坐するがごとく~」と記載があり、”下半身が水に浸かったように冷えている”と言えばこの処方です。
具体的には身体が重だるい、足が冷えて痛む、むくみ、腹痛、下痢などに使われます。

苓桂朮甘湯が上半身の症状に良く使われるのに対して、苓姜朮甘湯は下半身の症状に良く使われます。