近年注目の生薬!
遠志(おんじ)は近年、漢方業界の中で最も注目を浴びた生薬かもしれません。物忘れを改善する医薬品として発売された商品の主成分です。私個人としては遠志(おんじ)単体での商品に驚いたと共に、なるほどそういうネーミング!と企業のアイデアにいっぱいくわされた!という感じです。
アルプスの少女ハイジ世代の私にとっては「おじいさん」をイメージさせる生薬でしたが、(分かる人にしか分かりませんね・・・すいません)今回の新商品で尚更そのイメージが固まりました。
遠志(おんじ)の働き
遠志(おんじ)は「養心安神薬」に分類されます。
漢方では、体の機能系を肝・心・脾・肺・腎の5つに分類します。
精神活動は「心」と深い関係があり「心は神志を司る」と言われます。この精神活動の中核になる「心」を養い、安定させる働きが「養心安神薬」で、他には不眠症の時に良く使う「酸棗仁(さんそうにん)」があります。
遠志(おんじ)の働きを詳しく見ると、
①安神益智=精神を安定させ、智恵を益す
②痰濁(たんだく)を除き開竅する=どろどろした体液を除き詰まった穴(竅)を開き心や脳の働きを回復させる働き
があります。開竅薬としては牛黄や麝香(じゃこう)が有名で、動悸・息切れ・気つけなどに良く使われていますね。
漢方では「痰」は非常に重要な証の一つです。血液以外の体液を「津液」といい、津液がどろどろしたものが痰飲です。痰飲が心に絡みつくと、心の機能が乱され異常な独り言、異常行動、手足のけいれん、意識障害などが起こります。
遠志(おんじ)の②の働きは、この痰飲を除き、意識をはっきりさせてくれるもので、今回注目された最たる理由ではないかと思います。
遠志(おんじ)が向いている症状・体質
遠志(おんじ)の働きからして、「痰」がある人に適したものです。動悸、不眠、驚きやすい、健忘などに有効です。
ただし、「温・燥」の性質があるため、熱症状や陰虚証には不向きです。
痰は慢性化すると熱化しやすく、そうすると錯乱、暴力行為、目の充血など激しい症状が見られます。その場合は遠志(おんじ)単体での使用ではなく、熱をとるものと併用する必要があります。例えば加味温胆湯は遠志(おんじ)の他に熱をとるものや胃腸を元気にするものなどが配合されています。
また、年齢と共に体の津液は失われ、「陰虚証」になりやすくなります。ほてり、喉の渇き、寝汗など陰虚がある場合、遠志(おんじ)単体だとさらに乾かしてしまうため、補陰剤や補血・生津剤と併用する必要があります。例えば人参養栄湯は遠志(おんじ)の他に滋陰の熟地黄や生津の五味子が配合されています。
漢方薬は何種類かの生薬で構成されていますが、お互いの弱点を補ったり、作用を強めあったり、その配合に妙があります。今回遠志(おんじ)が大注目されたこと自体はとても嬉しいですが、漢方薬は単体で生薬を使用するよりもとても優れています。