おねしょを治したい!
少し緊張した面持ちでお母様と来られた小学一年生の男の子。おねしょが治らず、2年程前から夜尿症の薬を飲み始めたそうです。大方改善したため薬を中止してみたところ、無事だったのは1ヶ月に5日くらい。寝付くと熟睡し、寝たままおしっこしてしまう。量は日によりけり、たっぷりどっしりの時も・・・。お昼はといえば、どちらかというとトイレは遠い方。
チラッと見せてくれる、はにかむ笑顔が素敵な頑張りやさんの男の子。「治したい!」という強い意志で、漢方を飲まれることになりました。
体質は、寒がり・汗かき・寝汗・首こり・乾燥肌・発疹出やすい・頭痛もち・目の乾燥・充血・鼻づまり・水分1L(冷飲)・食欲少なめ、体格は小柄
■夜尿症(おねしょ)の原因
西洋学的に主な要因は4つ
○抗利尿ホルモンの不足・・・夜間はこのホルモンのおかげで尿量が抑えられています。
○膀胱容量の未発達・・・膀胱のサイズが小さいと、溜められる容量も少なくなります。
○心理的なストレス・・・心の緊張状態は、膀胱の機能を不安定にします。
○器質的な異常・・・生まれつき形状に問題があり、溜めることができないつくり。
基本的におねしょは、乳幼児にとってはごく普通のこと。子供の内臓機能は成長途中であり、体の成長と共に、膀胱容量が増えて尿を溜める力がついてきたり、夜作られる尿量を少なくコントロールできるようになってきます。そのスピードは人ぞれぞれですが、小学生にあがっても続く場合は「夜尿症」と診断されます。夜尿症は10%くらいの小学生にみられるようです。
夜尿症と診断されても、器質的な問題でなければ、ほとんどの場合は自然に治っていくものです。ですが、本人やご両親にとっては、一刻も早く治したいもの。もし治らなかったらと不安から逃れられないことと思います。
漢方的に夜尿症をみると、大きく3タイプ
○腎気不足・・・成長を促す〝腎“の力が足りないと、内蔵機能の発達が遅くなります。
産まれつき腎気が弱い、あるいは病気など大きな負担でも腎は弱ります。
○脾肺気虚・・・“脾”“肺“が生みだす〝気”が少ないと、留める力が弱くなります。
水分代謝もうまく働かないため、体に余分な水が溜まりやすくなります。
○肝経湿熱・・・自律神経をコントロールする“肝”が過敏になり、少しの刺激で尿意が
もたらされたり、神経のバランスが崩れて調節がきかなくなります。
子供の場合、夜尿症の要因として大半は、体の機能が未発達ということ。従って、その機能を発揮させる為に、成長を後押しすることが必要です。
漢方では、全体的な成長を支える一番重要なものは“腎”という臓腑。両親から引き継いだエネルギーを“腎”に蓄え、それを源に身体機能を成熟させていきます。成長する過程で自然に治まるはずの夜尿症が長引くということは、“腎”の力が弱いということが考えられます。
次に成長に関わるのは、“脾”と“肺”の臓腑。これらは食べ物や大気から、体をつくる栄養と、活動源となる気を取り込むところです。栄養とエネルギーが不足すれば臓腑は弱くなり、機能を維持できなくなる結果、溜めるべきものが漏れ出てしまいます。また、“脾”と“肺”は水分の代謝を担うところ。これらが弱いと水はけが悪くなり、むくみとして体内に滞ります。その余分な水が寝ている間に膀胱に押し寄せてしまうと、容量をオーバーしてしまいます。
そして、上記2つとタイプが異なるのが、大人の夜尿症や、子供でも途中から夜尿症になった場合。これらは精神面が絡むものが多く、“肝”の失調によるもの。“肝”は気の巡りをコントロールし、様々な神経を調節しているところ。過度な緊張、ストレスなど、“肝”の働きを押さえ込む事があると、鬱滞した気が熱に変化して、神経を刺激します。神経がちぐはぐに働いてしまう結果、突然コントロールできなくなります。この場合は、“肝”の過剰な熱を鎮めて自律神経のバランスを整えていく必要があります。
■成長をつかさどる“腎”を補強し、半年で失敗ゼロに!
この男の子の場合は、腎の力不足によるものでした。漢方を始めて1ヶ月。1週間のうち6日成功!順調な出だしに、ご本人もお母様もとても嬉しそう。もちろん、そうすぐには卒業とはいきません。成功と失敗を繰り返しながらも、治ると信じて飲み続けてくれました。
当初はお母様が準備されていた漢方薬を、いつしかお子様自身で準備して飲むように。約半年が過ぎた頃には、1回も失敗しなくなりました!
「本当によかった」それまで穏やかに見守って来られたお母様も、ようやく不安から解放されたことでしょう。治したい!というご本人の強い意志と行動、それを見守るお母様の想い、2つの思いが後押しして成し遂げた結果です。人それぞれ、自分のペースを持っています。早いから良い、遅いから悪いというわけではありません。
ご兄弟やお友達、他の誰かと比べすぎないこと。焦らせることなく、お子様の力を信じて見守ること。大切なのはそういうことなのだと、お母様の姿を拝見していて感じました。
9歳のお誕生日を迎える頃、ご両親と一緒に会いに来て下さり、少し照れながら「ありがとう」と、いつものはにかむ笑顔を見せてくれました。その笑顔に、私の心はほっこり温まりました。お友達とのお泊りも宿泊体験学習も、心配せずに学校生活を思いっきり楽しんで!!